[判例]石綿肺患者自殺は労災…岡山地裁、初の司法判断
アスベスト(石綿)の吹きつけ作業に従事し、じん肺の一種「石綿肺」を発症した男性(当時60歳代)が自殺したのは、闘病苦が原因であり労災にあたるとして中国地方在住の妻が、労働基準監督署による労災不認定処分の取り消しを求めた訴訟の判決が26日、岡山地裁でありました。古田孝夫裁判長は「10年以上にわたる症状悪化や石綿疾患による同僚らの死で心理的ストレスが過重だった。うつ病の発症と、石綿肺の原因である業務との間に因果関係が認められる」として、国の処分取り消しを命じました。石綿疾患の患者の自殺が労災認定された事例はありますが、司法判断による認定は初めて。支援団体の調べでは、同関連病を巡る自殺は、今回のケースを含めて少なくとも6件あり、患者への支援の重要性が改めて問われることとなります。
判決などによりますと、男性は1961〜70年、石綿吹き付け施工会社に勤務し、大量の石綿にさらされました。87年に石綿肺と診断され、02年6月に合併症を併発し労災認定され、10月にうつ病と診断されました。さらに06年8月に中皮腫の疑い、07年1月には石綿肺の最重症(管理4相当)と診断され、5月に自殺しました。
妻は同7月、倉敷労働基準監督署に遺族補償給付金などを申請。国の基準では、精神障害の発症前6か月間に「業務による強い心理的負荷」があれば労災を認めるが、同労基署は、02年のうつ病発症時の石綿肺の病状などから心理的負荷は強くなかったと判断。その後も「自殺直前まで、病状の急変など特別な出来事はない」とし、労災と認定しませんでした。妻の審査請求や再審査請求も退けられました。それに対し、古田裁判長は「次第に悪化する石綿肺の病状や死への恐怖を考慮すれば、短期間での顕著な重症化がないからといって、心理的ストレスの強度を否定できない」と処分を取り消しました。
原告弁護団の一人、松丸正弁護士は「石綿肺の特殊性に着目した判決といえる」と高く評価した上で、「石綿肺による闘病苦での自殺は最も悲惨なできごと。同じような遺族の救済を今後どうしていくのか、どういう実態があるのか、国に調査してもらいたい」と求めました。
◆石綿肺 粉じんを大量に吸入して肺が硬くなる病気「じん肺」の一種で、アスベストに曝露(ばくろ)してから発症まで15〜20年の潜伏期間があるとされる。肺機能が低下し、せきやたん、息切れの症状が出て、進行すると呼吸困難となる。根本的な治療方法はなく、中皮腫や気管支炎を合併することもあり、肺がん発症の危険性も高い。昨年度の労災認定者は全国で68人。